聖マリアンナ医科大学 腎・泌尿器外科学

Inquiry

当科の特徴ある診療

小切開拡大前立腺全摘除術

前立腺癌の手術療法の特徴について

当科における前立腺癌の手術療法は内視鏡補助下で行う単一創の小切開(7cm)手術を採用しております。内視鏡補助下小切開手術は別名ミニマム創手術とよばれ、一般的な腹腔鏡手術のような炭酸ガスで腹腔内を膨らませずに、小さい術創で手術を行う技法で2006年に先進医療に認定され、2008年に保険収載されました。(ミニマム創学会 http://www.minimumendo.jp/index.html)
 さらに当院では2016年から術創サイズは変えず、根治性を高めるために拡大前立腺全摘を行っております。これは拡大リンパ節郭清と前立腺被膜外組織を一塊にして前立腺を摘出する手術様式です。これにより癌の完全切除率の向上、さらに画一化された系統的手術を行うことにより出血の低減も可能となり、高い根治率と低侵襲化を実現しております。限局性癌(被膜浸潤をきたさない癌)では癌の取り残しはほとんどなく、局所浸潤性癌(被膜浸潤、精嚢浸潤)であってもかなりの割合での完全摘除が可能となっております。出血量は平均で約200ml程度であり、自己血貯血を準備や輸血を必要とすることはなくなっております。術後問題となる尿失禁も術後1年の改善率は95%以上となっております。

 当院での手術療法を検討される地域の先生方、患者さんは是非お気軽にご相談ください。

前立腺癌診断における3D-Image Fusion 生検

1989年9月から本大学病院において、前立腺癌診断のために、より精度の高い前立腺針生検が行えるようになりました。
これまで、前立腺生検は超音波ガイドにて行われてきました。しかし、超音波画像は前立腺癌の描出に関しては診断率に課題がありました。

一方で、前立腺癌の描出にはMRI画像が優れていましたが、強い磁力が発生するためMRI検査下での前立腺生検は困難でした。その問題を解決するために、MRI画像を超音波画像に融合(Fusion)するシステムが開発され、2019年から、川崎市においては特定健診のオプションにPSA検査が認められました。本機器の導入により前立腺癌の診断率の向上が期待でき、早期発見、早期診断につながると考えています。
地域の先生におかれましてはご紹介いただける患者さんがいらっしゃいましたら、腎泌尿器外科外来にご連絡いただくか、水曜日午後の前立腺腫瘍外来までご紹介いただければ幸いです。どうぞ、お気軽にご相談ください。

集学的診療を中心とした腎移植

 当院の腎移植においては、移植コーディネーター、薬剤師とともに、腎臓内科と腎泌尿器外科両者の視点できめ細かい診療を行っています。
以下に、腎移植について解説いたします。

○腎移植をうけるために必要なこと

 腎移植は、失われた腎機能のすべての働きを回復することができる治療法ですので、慢性腎不全の方にとって最も優れた腎代替療法といえます。一方で、①全身麻酔の手術が必要、②腎臓の提供者(ドナー)が必要、③生涯にわたる免疫抑制剤の内服が必要、④腎移植を受けるのは70歳くらいまで、といったことがあげられます。すなわち、おおきな全身麻酔の手術である腎移植を安全に受ける上で、現在治療中の病気や心機能の状態が支障をきたさないことと、悪性腫瘍や感染症は免疫抑制剤により悪化してしまうため、安全に腎移植後の管理が可能な病態であるかの確認が必要です。もちろん、腎を提供するドナーがいていただくことで、腎移植は成り立ちます。

○献腎移植と生体腎移植について

 腎移植のために、亡くなられた方か、生きている方がドナーとなっていただく必要があるのですが、前者による移植を献腎移植、後者の場合を生体腎移植と呼んでいます。
 献腎移植を受けるためには、国内唯一のあっせん機関である日本臓器移植ネットワーク(以下ネットワーク)に申請して、献腎移植待機登録をする必要があります。献腎移植は、ネットワークに適切と認定され、登録された施設(会員施設といいます)でしか行えませんので、希望施設の腎移植担当科(当院であれば腎泌尿器外科)をまず受診し、献腎移植を受けるための条件などの説明、および診察と必要な検査を受けることで登録が完了します。
 神奈川県内の会員施設は、当聖マリアンナ医科大学病院を含め6つの施設があります。献腎移植の条件などの詳細は、以下をご参照ください。
「日本臓器移植ネットワーク」

 もうひとつの方法が、親族の方からひとつの腎臓を提供していただく、生体腎移植という方法です。
日本移植学会規定により、生体腎移植ドナーになることができるのは、6親等以内の血族と配偶者、3親等以内の姻族である親族とされています。腎不全が進行した親族に対して、情愛の念から健常なひとつの腎臓を提供したいという尊いお気持ちが、生体腎移植の礎です。腎臓は、大きさが握りこぶしくらいで、おなかの中央やや背中よりに通常2つあり、いつもは余裕を持って働いてくれています。このうち、ひとつの腎臓を提供しても、もうひとつの腎臓の働きが十分で、生活に支障なく、その後期待される寿命まで健やかに過ごしていけるかどうかをしっかりと見極められた方のみ、生体ドナーとなっていただくことができると、我々は考えています。ですから、もともと腎臓に病気がないか(多くは検尿での明らかな異常で発見されます)、腎機能を将来悪化させる要素(糖尿病や治療されない高血圧、尿路結石、繰り返す腎盂腎炎)がないかをしっかり調べる必要があります。
 また、せっかくご提供いただいても、レシピエントが拒絶反応を起こす可能性の高い組み合わせ(クロスマッチ試験陽性)では、1~数年以内に、拒絶反応により移植腎が機能しなくなってしまう可能性が高く、ドナーとなることをお勧めできません。
このクロスマッチ検査は、献腎移植の際にも行われます。ABO血液型については、現在ほとんどの方が血液型に関係なく(不適合という組み合わせ注1であっても)、生体腎移植を受けていただけるようになりました。
さらには、移植することにより、ドナーの方の悪性腫瘍や感染症がレシピエントに移ってしまわないかも、事前の確認が必要です。これらのことをご理解いただきつつ、外来、入院での検査を進めて生体腎移植の準備を整えていきます。
注1・・・ABO血液型では、輸血が通常は同じ型での組み合わせで行われるのに加え、腎移植では、O型ドナーからすべての血液型のレシピエント、A型およびB型のドナーからAB型へレシピエントの組み合わせを適合といいます。これ以外の組み合わせを、不適合と呼んでおり、2000年頃より不適合生体腎移植が安全に行われるようになってきました。文中のクロスマッチ試験は、ABO血液型とは別の検査になります。

○腎移植手術について

  全身麻酔および硬膜外麻酔下に、右下腹部(場合により左)に逆J字型の20cmの切開をおき(図1)、腹膜という腹腔(おなかの中の臓器が入っている空間)を包む膜を破らないように、大動脈から左右に分かれ、足のほうに走行する血管(腸骨動静脈)を露出したのち、移植腎の静脈、動脈をつなぎ、移植腎への血流を再開させます。通常短時間で腎臓が尿を作り始め、これを確認したのち、移植尿管と膀胱をつなぎます(図2)。出血や尿の漏れがないかを知るためにドレーンという管を傷の横から入れて、傷を閉じます。


○拒絶反応と免疫抑制剤について

   拒絶反応が起こらないようにするために免疫抑制剤(セルセプト、プログラフ、プレドニゾロン、シムレクト、サーティカンなど)を用います。下痢、高血圧、高血糖、ふるえ肝機能障害などの副作用の可能性があります。
 急性拒絶反応の起きる可能性は、現在行っている免疫抑制療法ではABO血液型が適合した方でも約10-20%と考えられ、ほとんどの場合が治療可能です。レシピエントがもともと持っている抗体が原因となる促進型拒絶反応(超急性拒絶反応)があり、多くは48時間以内に発現すると考えられていますが、クロスマッチ検査陰性のため可能性は高くありません。この場合血漿交換、リツキサン投与を含めた強力な免疫抑制治療を行う必要があります。こうした治療を行っても拒絶反応が抑えられない場合、腎臓が機能しなくなる可能性(<5%)があります。

○術後経過について

 第一に、充分な水分補給と、適切な排泄が大切です。脱水状態は移植腎血流を減らし、腎機能に影響を与えます。また、膀胱に尿がたまりすぎることは、新しくつないだ移植尿管への負担や、膀胱炎などの原因となります。
 第二に、拒絶反応や薬の副作用などの早期発見、早期治療が重要です。このために定期通院での血液・尿検査、および体調の管理が必要になります。
 第三に、日常生活において自己管理を行っていくことが大切です。内服の内容と時間を間違えないようにすること、血圧や体重などの測定を継続していくことが、移植腎臓維持のために重要です。また感染症にも注意が必要です。

 これらすべての面におけるお世話を多職種が一丸となって支え、一人でも多くの方に腎移植の成功とその後の充実した生活をお過ごしいただけるようお手伝いしていきます。

腎機能温存を意識した無阻血無縫合の腎部分切除

 基本的に腎細胞癌は抗癌剤や放射線が効きにくく、主な治療法は手術と薬物治療になります。
 手術は長らく、癌のある腎臓を丸ごと切除する腎摘除術が行われてきました。一方で、近年、画像診断の進歩と検診などの予防医学の普及により、腎細胞癌は早期の状態いわゆる大きさが小さい状態でみつかることが増えてきました。このような小径腎癌に対しては、腎細胞癌とその周囲の腎臓を一部切除する、「腎部分切除術」が行われるようになってきました。従来のこの手術法では、腎臓の一部を切除する間、出血を抑えるために腎臓への血流を短時間遮断して行われてきました。しかしながら、短時間とはいえ血流が遮断されることで残った腎臓の機能も多少は落ちてしまいます。
 そこで当院では、適応となる患者さんには「可能な限り腎機能を温存するために、血流を遮断しない無阻血無縫合で行う手術法」を積極的に行っております。

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